2016年9月、惜しまれながら『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の連載を終了した秋本治先生。しかし、秋本先生は早くも新作に着手している!! しかもGJ最新号の掲載作品を幕開きに「四誌で新連載」という壮大なプロジェクトに挑む!! そんな秋本治先生の「現在」と「これから」を直撃します!!

──『こち亀』の後に、新たな4作品を描こうというのは、いつ頃から考えていらしたのですか?

秋本治先生(以下、秋本):『こち亀』200巻が見えた時点で、少年ジャンプでの連載もフィナーレかなって考え出して。その時はすごく迷ったんですけどね。でも決断した時点で、次に何を描くかは決めていました。西部劇は、前に描いた時(2015年GJ4号『アリィよ銃を撃て!』)がすごく楽しかったので、これは絶対に描きたいなと思いました。京都(『ファインダー』)も、今描きたいんですよね。そして、クリス(『Mr. Clice』)はずっと描いてたんで、これは続けたい。下町のお風呂屋さん『いいゆだね!』も以前3話描いていてコミックスにまとめたいと思っているんです。

秋本先生手製の「企画書」で雑誌にプレゼン!

──新連載を4本立ち上げるにあたり、各雑誌に「企画書」を自ら書いて送られたと伺いました。

秋本:作品はきれいに着地することより、立ち上げることの方が難しいですからね。4作品ともゼロから打合せをしていると時間がかかるんですよ。だから「こういうのを描きたい」という内容を前もって渡しておけば、編集さんと話がスムーズになると思って。また、実際に描かせてもらえるかどうかもわからない時期でしたから、「どうですか?」と様子を伺う意味で書いてみました。

KEYWORD企画書
四誌連載を決めた秋本先生手書き資料
9月『こち亀』40周年&終了の激務の中書き上げ、4誌にプレゼンを敢行。四誌新連載を実現した!

──見事、企画書が成功。ただ、4作品並行して連載は物理的に可能なのでしょうか…!?

秋本:今だから言えるってことでもないですけど、両さんも4本同時に描いてました。

──…? どういうことでしょうか?

「西部劇、女子高生…。ギャップある作画が楽しい」

秋本:僕は週に2本ずつネームを描くようにしていました。ネームをストックして原稿は4本同時にペン入れを行うサイクルになっていたんです。部長や両さんの話は人物が多いから先に僕が描いて、車とか海外が出てくる話は物や背景の作画に時間がかかるから早めにスタッフが始めたりとか。そうして絶えず月100ページくらい描いていたので、今回も4作品同時連載なんですが、無理がない動きができていますね。
 それに両さんの時もそうでしたけど、人情話が出たと思うと特殊刑事とアクションしたり、そういう変化が描いていて楽しいんです。同じ作品だとどうしても同じテイストになってしまうので。今回もまさに、西部劇描いた後には女子高生の明るい感じのを描く、みたいな。ギャップがあるものを描くのが、やはり楽しいですね。

──4作品のことを1つずつお伺いできればと思います。まずは『BLACK TIGERブラックティガー(以下、BT)』。 こちらは秋本先生の作品としてかなりハードな世界を感じますね。

秋本:そうですね、今回の4作品の中では異色な作品だと思います。男が強いのが当たり前な世界で、強い女性キャラを描きたいなとずっと思っていて。

──絵のタッチは、『こち亀』やこれまでの作品から変化があるでしょうか?

秋本:はい、むしろ意識して。同じではイカン、青年誌らしい絵にしようと。『BT』については昔から描いてた、自分のルーツである劇画で、初心に戻って描いてみました。

──そもそも40年前の『こち亀』連載以前に先生が描かれていた作品が、非常にハードなものだったとか…?

秋本:そうですね。私はもともと望月三起也先生の影響をかなり受けているんです。たとえば、緊迫の銃撃戦で人間が撃たれて転げまわる場面はやっぱり衝撃ですよ。そこに圧倒的迫力があるから、望月先生の描く構図と絵に魅せられてきたんです。

『こち亀』が始まる40年前、熱中していた本格劇画の世界

KEYWORD戦争もの
40年前に生まれた秋本先生の原点!
40年前、秋本先生執筆の戦記漫画。史実を伝えるというよりアクション要素の強い内容。迫力のある構図も、望月先生の影響だ。

──重厚なガンファイトなど、40年間温められてきた長年の欲求が『BLACK TIGER』に込められている?

秋本:そうそう思いっきりコマ割りが自由にできるんで。こういうアクションが描きたかったんですよ~。西部劇であれば、時代劇の殺陣みたいに、痛快に撃って撃ってみたいなこともできるから。自分にとっては一番面白いジャンルかな。

──『こち亀』の秋本治先生とはまたガラッと別の印象の作品ですね。

秋本:実はギャグというジャンルに初めて挑んだ作品が『こち亀』だったんですよ。僕の場合、中学くらいの時に流行った劇画の波がすごくて、ものすごい影響を受けていたので、漫画家を志した頃はそういうジャンルを描いていけるかなと思ってた。そしたら予想外にギャグが続いて…、40年描き続けたって感じです(笑)。

主人公は女子高校生。男子キャラを出さない作り

──今回の4作品の中で、もう一つ“40年越しの思い”に始まる作品、完全新作連載『ファインダー―京都女学院物語―』について伺わせてください。

秋本:デビュー前には劇画の戦争漫画も描いていましたが、「少女漫画」も描いていたんです。『こち亀』以前に描いた少女漫画も残ってます。僕なりの少女漫画なんですけど。  少女漫画は独特な心理描写が面白いですね。僕くらいの世代の漫画家は、いろんなジャンルの漫画を描いてましたから。ちばてつや先生もそういう作品を描いてましたし。今は少女漫画作家で、男は一人もいないんですが、そういう時代だったんですよ。 だから、今回はチャレンジという意味であえて主人公を女子高校生にして、男の子を一切出さないという作りにしました。『BT』はけっこう男ばっかりなんですけど(笑)。

──秋本先生が、京都の女子高生を描くとは!という驚きがありますが…。

秋本:まず、昔から京都を描きたいと思ってて。どうしてかというと、「京都アニメーション」(京都府・宇治市に本社を構えるアニメ制作会社)が好きなんです。特に最近の作品で、『響け!ユーフォニアム』が好きですが、そこで「宇治」が使われちゃって。「これは早く描かないと!」と思いました(笑)。『ファインダー』では京都よりもちょっと外れた「亀岡」を舞台にしました。その構想は、2年くらい前からずっとあったんです。

女の子を通じて、京都の四季を描きたい

──女子高校生がテーマの理由は?

秋本:また京アニなんですが『けいおん!』とかのふんわりした女の子を描いてみたいなあと。一応部活動には入っているけど、しっかりやっていない子の、日常の生活を。それで、少女漫画風なんだけど恋愛は抜き。女の子を通じて、京都の四季を描きたいんですよね。

KEYWORD少女漫画
こちらも秋本先生のデビュー前の意欲作
プロデビュー前の作品だが、当時の少女漫画の文法を研究した上で執筆されている。引き出しの多さに驚かされるばかり。

──そういう挑戦的な意味での少女漫画、という背景もあるんですね。

秋本:東京を舞台にすると、モダンな感じになっちゃうけど、埼玉の子が「ちょっと東京に行こうか」みたいな感じも好きで。京都市から離れた高校生が、「今日は京都でお祭りあるから行こうか」「でも地元の方がいいよね」っていう、ギャップを描きたかった、という気持ちもあります。

──亀岡を舞台にしたのも、そういう理由ですか?

秋本:トロッコ列車で亀岡まで行ったんですけど、畑と山が見える景色がすごい印象に残ったんですね。京都市内から近いのに原風景、というのを描いてみたい。取材に行って、何もないっていうと違いますけど、映画館がないっていうのも気に入った。

──亀有と、「亀」つながりでもあるという…。

秋本:偶然ですね、それは。亀岡にはこれまで3回くらい行きましたが、行くたびにイメージが湧いてくるんです。それだけ魅力的な街。京都は女性旅行者が多い街なので、タクシーに乗って街をまわると「お客さん、男一人で珍しいですね」って言われるんですけど(笑)。

──京都にお一人で行かれるんですね!(驚き)

秋本:そうなんです。でも「取材で」っていうと納得してくれるからね。観光地だから運転手さんは慣れてるし。京都は東京から2時間だから、すぐ行っちゃうもん。うちから国分寺に行くくらいの感覚。

──読者に見てほしい部分は?

秋本:男の子だと「中二病」ってありますよね。それの女性版なんですよね、今回は。だから、女の子が読んで共感するような部分を見つけてくれたら面白いと思う。あと、京都タワーとか二条の新しい駅とか、新しい京都を見てくれたらいいですね。

──『Mr.Clice』のお話をお伺いしたいです。今回のクリス最新話はドバイが舞台ということです。秋本先生は、そこも取材に行かれたんですか?

秋本:ドバイ旅行自体はだいぶ前の話なんですが、行った時点から「クリスを出そう!」って思っていました。

──海外の取材はどのようにされているのかなと思っていたんですけど!

秋本:旅行が好きなんですよ。漫画家の中では人一倍行ってると思いますよ。ニューヨークからパリの方まで行ったり、ハワイとかも大好きで毎年行ってます。それが全部漫画のネタになってる。貧乏性なので、旅行をネタにしたいんですよ(笑)。

──体験を全て漫画につなげるんですね。

秋本:あとは映画の影響ですよ。『クリス』だと007や、ミッションインポッシブル。スパイ大作戦からかなり時代背景が変わっているけれども、いろんなテクノロジーの登場で「今の状況でもスパイものやれるわ」っていう確信があるんです。今回登場させた近代兵器も、これからどんどん進化すると思うし。最新のテクノロジーとか調べるのは好きですから、まだ『クリス』は描けますね。