原作小説の発表から20年以上! その間、国内外で映画化オファーが殺到しながらも、そのスケールの壮大さから成立に至らず、まさに“映像化不可能な小説No.1”と言われ続けてきた夢枕獏の世界的大ベストセラー『神々の山嶺』が遂に奇跡の映画化。 日本映画の“最高峰”ともいえる作品の誕生だ!

伝説のクライマー羽生丈二を演じたのは、映画『テルマエロマエ』や『ふしぎな岬の物語』、テレビドラマ『下町ロケット』などで、主演、助演関わらず強烈な印象を残す阿部寛。原作に描かれた、針の振り切ったような生き方しか出来ない羽生の魂に取り憑かれたようなリアリティ溢れる迫真の演技が見逃せない。

映画のお話をいただいたとき、「面白いものが来たな」と思いました。台本と原作、そしてコミックを読ませてもらって、二つ返事でOKさせていただきました。
 夢枕獏さんの描かれた、これほどまでスケールの大きい作品との出会いは役者冥利に尽きますし、実際にヒマラヤへ赴き、5000メートルを越える場所のエヴェレストに登ったことは生涯においても特別なことでした。これ以上は考えられない場所を舞台に芝居ができたわけですから。
 コミック版『神々の山嶺』も素晴らしかった。獏さんが「漫画化にするなら谷口ジローさんしかいない」とおっしゃったとか。漫画作品としても純粋に面白かったですし、そんな獏さんの言葉の意味を深く理解しました。

漫画でも、人物は勿論、山の景色にしろ圧倒的なリアリティを持って表現されており、僕の演じた伝説のクライマー:羽生丈二の存在も含め、なるべくあの世界感に近づけなければと意識しました。
 完成した映画には、実際にエヴェレストで感じた広さや奥行きみたいなものがしっかり映っていたので、あの場に行ったこと、それだけで正解でしたし、あの経験をできたこともよかったです。
 共演者にもスタッフにも迷惑をかけられない、山を下りることになったらそこで全てが終わりますから。そういった責任感をしっかり認識し、撮影のための心構えは勿論、体調管理にしても現地で問題が起きないように準備しました。
 クランクインする前は、沢山の山がテーマになっている映画をできるだけ観ました。『アイガー北壁』(2008年)や、我々の撮影していた付近でも撮影されたという『エヴェレスト 3D』(2015年)など。

唯一、監督から言われたのは「太く居てくれ」ということでした。「急がなくていいので台詞は太くゆっくり」と常に反復されました。羽生は大抵のことでも微動だにしませんので、「太く存在する」ことを肝に銘じました。
 羽生の山に対する情熱は並々ならぬ強さであり、俄には想像しても想像しきれません。これほどまでに真っすぐで迷いのない人間は演じたことがありません。
 現実的なクライミングの話を山屋さんに聞いても、なかなか安易に咀嚼できるものではありませんが、劇中の羽生がいかに想像を超えている人間かは分かるし感じ取ることはできる。すぐに羽生の精神まで到達できなくとも、まずそこが目標になりました。
 撮影までには3ヵ月ほど準備期間があったんですが、山のトレーニングを経験した上で覚えなければならないことと、現地に行かなきゃ分からないことも山ほどありますから、その時間だけでは到底足りないんですね。
 そこでまず三つ峠(古くからクライマーに岩登りの練習としても使われている山梨県の山)を数回訪れました。岩によじ登ったりロープワークの練習をしたり。都内ではボルタリングに5〜6回通いました。とにかく難しくて何日もかけて訓練を重ねました。
 重要だったのは、出発の最終日までに何日間か通った低酸素室でのトレーニングです。標高6000メートルまで耐えられるような条件のトレーニングを経て万全の状態で臨み、その翌日にはエヴェレストへと旅立ちました。

現地では1日6〜7時間平均くらいで登りましたから、その間にいろんなことを考えるだろうと想像していたんですが、山に登る間は自然と無になり、何も考えませんでした。トレッキング(山歩き)のように、おしゃべりしながらみんなで登りますから、いつの間にか標高が上がっていくみたいな感覚です。ただし、標高4500メートル辺りを超えるようなってからは、見える風景も違ってきますし足場も険しくなるし寒さも深まってきます。

伝説化した孤高のクライマー。人生すべてをエヴェレスト登頂に懸けてきた男。
羽生(はぶ)丈二 役:阿部 寛

1964年神奈川県出身。87年映画デビュー。『歩いても 歩いても』(07)、『青い鳥』(08)で毎日映画コンクール男優主演賞を受賞。その後も数々の作品に主演し、2012年には大ヒットを記録した『テルマエ•ロマエ』(12)で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞などその年の映画賞を多数受賞。その他に『トリック』シリーズ(02〜)、『麒麟の翼〜劇場版•新参者』(11)、『カラスの親指』(12)、『テルマエ•ロマエⅡ』(14)などがある。14年度日本アカデミー賞においては、『ふしぎな岬の物語』(14)で優秀主演男優賞、『柘榴坂の仇討』(14)で優秀助演男優賞をW受賞。また、是枝裕和監督による『海よりもまだ深く』で主演を務め、本年度の公開が決定。日本を代表する映画俳優の一人。