146年ぶりの法改訂。
移行期の混乱につけこむ悪い奴らがいる。

18~21。何の数字かといえば、これが世界の成人年齢である。人類の歴史を見ていくと、基本的に成人年齢は上がっていく傾向にある。日本で二十歳を成人としたのは、明治九年の太政官布告、そして同二十九年の民法で明記された。江戸時代、男子は十五歳、女子は十四歳で大人とされていた。

その成人年齢が2022年4月より十八歳へと引き下げられることになった。すでに投票権は十八歳になっていたわけで、成人年齢もそれに合わせる形になった。実に百四十六年ぶりの改定である。

確かに世界を見ると、十八歳成人が主流であり、日本と同じ二十歳に設定している国は少数派である。むろん、改訂後数年経過していけば、十八歳成人が当たり前と感じられるようになるだろうし、社会もそれに合わせて行くことになるだろう。

だがしかし、制度や法律が変った直後は必ず混乱が起きる。特に、今回の改定はつまるところ個人対象であることから、「何が変ったのか」「どう対応すればいいのか」は個人任せになってしまう。確かに昨年から行政側はSNSなども使って告知に努めているし、各メディアもたびたび取り上げている。が、十分とはとても言いがたい。それは、繰り返しになるが、ひとりひとりの理解が必要である改定というのは、対象者全員が同じ理解でないと意味がないからである。

前置きが長くなった。本稿では、四月以降に「新成人」となる十八歳、十九歳に気を付けて欲しいことを、具体的に書いていく。新成人になった途端にトラブルに巻き込まれたり、悔しい思いをする人が少しでも減ることを願っている。

迂闊な契約も「履行」か
「違約金を払う」ことに。

合法であることのみをもってして、恰も普通のビジネスであるかのような顔をしているマルチ商法の被害は未だに続いている。人間関係を金に換える商法であるため、大勢が集う場所は格好の漁場となる。大学などはまさにうってつけの場所だ。地元の大学に行く場合は別として、多くの人がまったく新しい環境になるのが大学である。むろんのこと、様々なマルチ商法(時にネットワークビジネスなどと名乗る)にターゲッティングされることになる。

これまでは、二十歳になるのを待って勧誘するという手法が基本であった。なぜか。

18・19歳を守っていた
「未成年者取消権」が使えなくなる。

本稿で紹介する全てのビジネスに共通する重要なポイントがここにある。未成年は、法的に保護されているから、迂闊な勧誘、つまりは契約に持ち込めないのである。それが、「未成年者取消権」である。

成人年齢は民法四条で規定され、未成年者取消権は民法五条に記されている。

未成年者が契約などの法律行為を行う場合は、その法定代理人(親権者=親、未成年後見人)の同意が必要であり、未成年者がその同意を得ずに単独で契約などをした場合は、代理人・本人が取り消すことができるのである。

多くの契約には「クーリングオフ」期間(※「クーリングオフ」は、契約締結をした場合でも一定の期間内であれば無条件で契約を解除できる制度。期間は販売方法によって異なる。契約書面にクーリングオフについての記載がなかったり、契約書面自体を受け取っていない場合は、期間を過ぎてもクーリングオフできる。)が設けられているが、この取消権は期間などに関係なく絶対的な取り消しが可能になる。

しかし、法律が変った。今後は十八歳になると取消権は使えなくなり、クーリングオフ期間を過ぎてしまうと、基本的には解約ができなくなるのである。

多くの場合は、親に頭を下げて
金を払うことになる。

ということは、つまり“新入生”がターゲットになるということだ。入試を通って、ある意味ほっとし、さらに新しい環境で興奮気味の精神状態でいる新入生を落とすことなど、簡単である。入り口はサークルなどにしておき、そこでマルチへと引きずり込む。しかも成人であるから、期間を過ぎれば解約できないし、中途解約は違約金と書いておけば、解約すらビジネスになるという、悪質な仕組みができあがってしまう。

契約は法律行為であり、結んだ契約は、クーリングオフ期間を過ぎてしまえば、履行しなくてはいけなくなる。学生だから、などという言い訳は通用しない。多くの場合は、親に頭を下げて金を払うことになる。

関連して言えば、コロナ禍が落ち着きを見せていることから、すでに「なるべく対面授業を行うように」という政府の方針もあるため、リモートで人に会えなかったこの数年と違って、キャンパスで顔を合わせるようになるため、さらに勧誘はしやすくなることだろう。

「19歳も成人」という
意識の抜け穴も狙われている。

そして、もう一点、これも本稿全体に関わることとして、注意したいのが、“十九歳も成人”だ、ということだ。

当たり前じゃ無いか、と思われるかもしれないが、十八歳「から」成人という改訂が圧倒的に強いメッセージなっている。ために、十九歳の「今月から成人だ」という意識が若干希薄になっている。入学二年目、つまり大学二年生も当然ながら狙われることになる。一年間ほぼリモートであったことから、新入生同様にキャンパスライフに渇望しており、ふわふわとして気分はそれほど変らないだろう。

ちなみにマルチ商法に関しては、「カモのネギには毒がある」で、きっちりと取り上げ、その欺罔性も描いているので、新入生、二年生、新社会人に是非読んで貰いたい。


「高校生AV」という
話題作りをしたい下司な会社
であれば平然と契約する。

AVの契約書に署名をさせる現場。逃げ場のない場所には絶対に行くべきでない。 写真提供:実話ナックルズ

新成人を狙っているのはマルチ商法だけではない。すでに、ニュースでも取り上げられているが、女性の場合はAVへの強制出演などの被害が考えられる。そもそも、自ら進んで出演している人ばかりではなく、「グラビアアイドル」「読者モデル」「水着モデル」などを喧伝文句に、強引にAV出演へと導く悪質なプロダクションや制作会社が存在する業界なのである。

筆者はかつて、刑事事件にまで発展し、重い罪を科されたBという会社に関するルポを書いたことがある(別冊宝島・日本のタブー所収)。ここでは拷問同様の激しいSM映像を販売していたが、現場に行くまで女優は知らず、大勢で取り囲んで強引な撮影をしていたのだ。

未成年者がこうした作品に出ることを強要され契約させられたとしても、未成年者取消権で解約可能である。一般にAVは二十歳からと言うのが業界の決まりであり、真っ当な会社はそもそも二十歳未満とは契約しないものであった。

だが、四月一日からは変るだろう。十八歳は未成年ではないのだ。“なりたて高校3年生”がAVに出る、という話題作りをしたい下司な会社であれば平然と契約するだろう。そして、その契約には取消権は使えない。出演するか違約金を払うしかなくなるのである。

四月一日施行に間に合わない
"例外規定"の法整備。

さすがにこれは問題であると、国会議員も含めて立法できないかという動きがようやく表面化してきたが、明らかに遅い。鬼滅の刃のセリフをかりるならば「判断が遅い、とにかくお前は判断が遅い」と行政府のトップである岸田総理に言いたいほどだ(それ以前の総理も同じだが、そもそも期待できないから論外なのである)。

幸い、与野党が共同でAVへの出演契約は新成人であったとしても、少なくとも二十歳までは取り消せるように立法しようという動きを見せている。業界側でも大手は成人年齢が変ったとしても「二十歳以上を推奨」としている。ただ、前述したように、この業界には人権無視を平然とするような会社もあるし、脅しに近い形で契約を結ぶプロダクションもある。

高額商品以外も。18歳新成人を
「モデル」「アイドル」と偽り、
AV出演に導く。取消権は使えない。

本来ならば、四月一日施行以前に、例外規定を設けなくてはいけなかった。

新成人となった女性、いや、すべての女性には、入り口が何であったとしても、こうした業界関係者と会うときには、絶対に一人では行かず、できれば数人で会うようにし、また、当然ながら録音や録画もして欲しい。あるいは、その場所の近くに友人に待機してもらい、時間を決めて連絡するようにし、その時間を過ぎて連絡がない場合には「軟禁されている」と警察に連絡してもらう、など、自分の身を守ることを第一にして欲しい。

街頭アンケートの目的は、
年齢を確認し、未成年でない
場合に勧誘を行うのが基本。

ターミナル駅の待合せ場所などでアンケート・店を尋ねる等を装い勧誘される。

コロナの間は大人しくなっていた街頭勧誘が再び増え始めている。マルチ商法もその一つであるが、それだけではない。

ターミナル駅では、相も変わらずアンケート調査を装って、別の場所に連れていって、ローン契約をさせるというものがある。

化粧品や様々な割引が得られる会員勧誘など、十年一日がごとく続いているものがある。なぜアンケート形式なのかというと、年齢確認のためである。大学生の場合は見分けが難しいし、新社会人といっても高校から就職する人もいるからだ。そこで年齢を確認し、未成年でない場合に勧誘を行うのが基本だ。

そもそも、街頭のアンケート調査などには、一切応じてはいけない。「答えていただけたらQUOカードを差し上げます」などと言われるが、たかが五百円で個人情報を提供するなど愚の骨頂である。街頭のみならず、大規模会場で行われる様々なショーでも、景品ほしさに協力する人を見かけるが、これも同じ事だ。

筆者などアンケート調査を頼まれると、名前はもちろんだが個人情報に関しては嘘しか答えない。そもそも応じることも少ないが。


借金させれば
ターゲットは誰でもいい。

さて、こうした勧誘の目的はむろんのこと、高額商品を買わせることである。「そんな高い物買えません」と言っても「大丈夫ですよ、当社は信販会社と提携していますから、月々わずかなお金で済みます」「提携会社がありますので、そこでクレジットカードを作っていただければ、リボ払いですよ」などと、借金責めにしてくる。

借金させれば、ターゲットは誰でもいいというのが、彼らの考えである。しかし、それでもクーリングオフや未成年者取消権は気になる。クーリングオフの場合、昔は、一部の人しか気づかなかったが、今では大分広まっている。そのため、契約しても「上司の決済が必要なので、契約書は郵送します」などと言って、遅らせる(実際には、到着日からの換算なので無意味だが)。さらに悪質になると、郵送すると言いながら、呼び寄せてそこで渡して、「契約の起算日は、ご記入いただいた日になります」と、「てめえクーリングオフなんかさせねえから」なと心の中で笑うのである。

十八歳、十九歳の皆さん。

世の中にはこういう悪党はたくさんいます。更に恐ろしいことに、彼らは自分たちが悪人だとは思っていません。

迂闊な契約でも履行
しなければならない原則。

こんなクズと戦うためにも、自分たちが成人であるという意識を常に持った上で、街頭勧誘は無視、万一、喫茶店やビルの一室に誘われた場合も拒絶、そして、契約書には絶対に記名押印しないこと。信販会社やカード会社は、仮に商品が無価値あるいは詐欺サービスであると訴えても「弊社はお客様に融資したのみであって、融資したお金を何に使われたかまでは関知いたしません」という呆れた回答しか得られない。ただ、この理屈は必ず通るわけではなく、たとえばダイヤモンド販売のココ山岡のトラブルでは、信販会社側が請求を止めている。とはいえ絶対ではない、それぐらい契約という法律行為には責任が生まれるのだ。合意した契約は必ず実行されねばならない、というのは法治社会の絶対的な約束事だということも忘れてはいけない。

先輩後輩関係を利用した
周到な「陥れ方」。

男女問わず、最近はエステやサロンに通うようになった。脱毛も女性だけのものではなく、男性の髭脱毛など幅広く使われるようになった。このエステもまたトラブルの多い業界である。初回のみ安くしておいて回数を引っ張るものから、完全パックと謳っておきながら実際には、後から追加が増えるものなど数々ある。集客さえしてしまえば、こっちのものだというのが、業界では散見される。

これもまた契約行為である。回数契約などをした場合、中途で解約すると違約金が発生する。しかし、これも未成年は守られている。いつでも取消権を行使すれば、綺麗さっぱりとサヨナラできるし、余計な金を支払うこともない。

だが、十八歳、十九歳はもはや守られない。自らの意志で契約したものの、やはり、これは止めたいとなった場合は、規則通りの違約金や解約金が発生し、それを拒否することはできない。

エステなどでは、会員が他の会員を勧誘すると割引といったキックバックを設けているところもある。たとえば、新入社員であったとするなら、先輩社員と仲良くなりたいわけで、その先輩から「私が言ってるエステ、すっごくいいよ」などと誘われ「体験してみない、無料だから」とまで言われたら「結構です」とは言いにくいだろう。

「システムが違う」「金額が違う」
「途中でも止められる」など、
「違うから、これは大丈夫」は全て疑え。

体験では分かりやすい部分を施術される。肌に艶を出したり、腹部の揉み出しで、一時的にウエストが細くなったり(むろん、元に戻ってしまう)。そして、先輩の紹介、丁寧な雰囲気の店内、さらには支払いは分割可能であるとか、「一日で考えたらコーヒーより安いじゃない」などの営業トークで頭がぼーっとしている間に契約してしまう。実際、筆者はそうした人たちに話を聞いたことが何度もある。みんな、共通しているのは、「洗脳されたような気がした」、ということだ。

会社の先輩、学校の先輩などから誘われた場合は「興味がありません」ときっぱり断ることが大切だ。それで人間関係が悪くなるようなら、所詮、そういう人間なのだ。自分のことしか考えておらず、また人間関係を自分の利益になることと捉えているような人間と、仲良くする必要など全くない。学校であれ会社であれ、その後に嫌がらせなどを受けた場合は、会社なら直属上司に、そして大学ならば学生課などに、報告し縁を切ればいい。

新たな被害を
生まないために、知り、断れ。

ここまで四月から新成人となる、十八歳・十九歳への注意喚起をしてきたが、あなた方を狙っているのは、もちろんながら、まだまだ沢山有る。しかし、具体例を多数挙げることは必ずしも有効とは言えない。というのは、筆者がここで書いたことと「システムが違う」「金額が違う」「途中でも止められる」など、「違うから、これは大丈夫」になりがちだからである。

詐欺について何度もルポを書いてきたが、その時にもこの「違う」には悩まされた。手法や扱う商品が完全に一致することなど、逆に希なのである。読み物として面白かったとしても、新たな被害が生まれてしまったのでは、意味がない。

とはいえ、ざっくりとしたケースは取り上げてみよう。

イベント、セミナー、パーティと称した熱狂空間で、高額商品購入に勧誘される可能性がある。 写真提供:実話ナックルズ

宗教 ○○研究会などを装って行われている。最初は勉強にも役だつようなフリをしているが、徐々に特定の人物を賛美したり、人間社会は本来こうなるべきだ、などと言いだし、集まりに呼ばれるようになる。会員契約という形を取ることも珍しくない。

経済研究 社会人から学生までを幅広く狙うもので「実際にお金はどう流れて行くのか」など、壮大なことを言うものの、「消費者金融で初回いくら借りられるか」などとんでもないことを言いだし「一回目の支払いで全額返すので大丈夫」と誘い込む。しかし、当然ながら契約者はあなた自身。金が集まって逃げられたら、支払いは絶対に必要になる。そして、新成人は誰も守ってくれない。

集団生活 有機農業やビーガンなどの顔を持っており、郊外でその作業に従事させ、労働力として搾取する。世の中には如何に身体に悪いものが多いかといった入り口から、消費者団体を装っていることもある。これも当然ながら契約を持ちかけてくる。

セミナー 起業や投資に関するもので、コロナ禍で増加、映像を利用したものが多い。必ず会員契約をさせる。最初は安い金額(数万)だが、「さらにレベルの高い情報を得るために」と高額契約へと持ち込んでいく。学校や会社が対面になると、仲間内からの誘いという形で危険性は高まる。これは、エステのところでも書いたが、「興味ありません」で救われる。はっきり言ってこうしたセミナー屋の話など百年聞いても、成功には繋がらない。断言します。

「熱狂」「囲い込み」に嵌められる
前に、冷静な第三者に相談を。

いかがだろう。まだまだあるはずだ。

新成人にとって、もっとも大切なことは、安易に契約してはいけないということだ。たとえそれが興味のあることだったとしても、第三者の冷静な目で契約を見てもらう必要がある。友人、親、親戚、相談できるなら絶対にして欲しい。身近にいないならば、弁護士会の無料相談や、消費者生活相談センターなどに行けばいい。トラブルが起きてから行くものだと思っているかもしれないが、起きる前に相談したほうが、相手も喜ぶだろう。

東洋医学に未病という言葉があるように、病気にならないことが最大の健康法であるわけで、それと同じ事が言える。

契約以前にじっくりと考えることで、契約に至らなければトラブルにもならない。

そんな当たり前のこと、と思われるかもしれないが、相手は「興奮させて夢を見させて」「囲い込んで逃げられないようにして」という異常な状況を作り出すことで追い詰めてくる悪人だ。十八歳・十九歳は、成人になることの怖さも知っておくべし。