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グランドジャンプ連載陣

──撮影終了から公開まで1年ほど経過しましたが、作品をより客観的に捉える時間になったのでは?

 結局、大友(元大友組組長/ビートたけし)は、ストーリーには関わるんだけど、そもそも大友を主人公にしたわけじゃなかったんだよね。
 物語は花菱会(関西最大規模を誇る巨大暴力団)の跡目争いと、東京の張会長(日本と韓国を股にかける大物フィクサー)率いる組織との抗争がメインになってる。成り行き上、大友が張会長の世話になっていて済州島にいるという設定があるけど、ストーリーのメインは花菱会なり他キャラクター側の面々なので、そっちの関係性を描く方がやってて面白かったね。大友は出なきゃしょうがないから出したみたいなもんだよ。
 それでも、しかるべき場面には大友が出てくることになるんだけど、キャラクター像としてはまぁ要にはなっているのかな。
 作ってる最中は3部作なのか4部作なのか、どこまでいくか分からなかったんだけど、3部作で終わって、なんとか収まりがついたって感じかな。

──3部作を通して仕上がりに関しては、あらかじめご自身がイメージされたものと変わらない印象ですか?

 3部で終わろうとしたら、このくらいの収まり方かなという感じ。4部になると韓国との喧嘩が始まっちゃったり、韓国の違う組織と花菱とくっついているところとやるとか。さらには香港の組織が出てきて、イギリスの組織が出てきて、果てはヨーロッパ各国の組織までが出てきてって、じゃんじゃんじゃんじゃんいくらでもイメージは広がるんだけど、そこまではやれないなという感じだね。

──前作『ビヨンド』で、大友が片岡(刑事/小日向文世)に、「オレが死んだってうわさを流したのはお前だろう」というシーンがありますが、その言葉を入れれば死んだと思っていた大友が生きてたという具合に、設定を全部ひっくり返せるということですもんね。

 うん。

──『ビヨンド』で、張会長が大友に「韓国に行かないか?」みたいなことを言うということで、3作目となる『最終章』のことを示唆していますが、つまり本作は『ビヨンド』制作のときに決定したわけですね?

 そうだね。『ビヨンド』を作るとき、設定的に大友が身を寄せるところがなくなっちゃってね。アメヤ横丁出身で、そこには日本在住の親分がいて、それが張会長というふうに使っちゃったんだよね。『ビヨンド』の後半では、「張会長のおかげで逃げられるようにしてもらった」んだと。そして済州島へ行き、それから『最終章』が始まるんだけど、前作で大友は刑事を殺して逃げたことになってる。どこにいるか分からないけれど済州島に逃げてる──という具合に。そして今度は、恩人である会長が狙われたと聞いて帰ってくるという。
 わりかしストーリーはすんなりできたんだよね。

──ストーリーの着想は、ラストシーンから逆算するというケースもあるんですか?

 まず今回は、花菱会の新しい会長を誰にするかを決めなきゃならなくて。セオリーだと、西野(花菱会若頭/西田敏行)なんだけど、西野は中田(花菱会若頭補佐/塩見三省) とくっついてて、前会長の娘婿にあたる男:野村(花菱会会長/大杉漣)は、任侠とは別世界にいた素人だったけど、前会長が強引にそいつを会長にしちゃったんで、たたき上げのヤクザが怒り出すっていうような。
 名目上、会長から杯は貰ってるわけだから、「ちゃんとやれ」と言われれば「はい」となるけど、実は裏じゃ「ちきしょう、なんだあの野郎」と思ってるというね。
 そこから揉めようっていう発想でね。野村はインテリヤクザの元証券マンで、人間関係などで常にイライラしている。同時に「みんな、オレが本来のヤクザじゃねぇからナメてんだろう」とかね。
 その物語とは別に、韓国滞在中の花田(花菱会幹部/ピエール瀧)がたまたま済州島の張会長のシマで遊んでて、トラブルを起こして張会長の手下を殺して逃げたことが発端になって揉めだす。それをきっかけにどんどん抗争に発展するんだけど、大物同士の対比とか、日本と日本在住の人たちのお互いのけん制のし合いみたいなので着想したんだよね。

──花菱会会長を演じた、登場人物の中でも若手に映る大杉さんの配置というのも、また相対的によかったですね。

 そうそう(笑)。空威張りしてるんだけど、結局は裏でなめられてるというようなキャラクターを巧く演じてくれたよね。

この映画から拳銃と暴力を無くせば、ある種一般の社会だよ。

──『ソナチネ』のロケ地となった沖縄は、現地の匂いを感じたものでしたが、今回の韓国というか済州島も、土地が独特のオーラを出すという感覚はありましたか。

 風景は、一部合成したりしてロケ地も場合によっては別のところで撮っているんだけど、ただ街だけは済州島に行って撮ったんだよ。美術さんたちも大変優秀でよくやってくれたの。済州島には何回か行ってるんでロケーションのイメージもあった。空気の近いような場所を見つけて、古めかしい家にハングル文字の看板をつけるだけで雰囲気が出る感じでね。

──今回、特に西田さんの迫力にも圧倒され、彼のフィルモグラフィーで最高のものとも言える気が個人的にはしています。監督として彼の俳優機微をどう捉えていらっしゃいますか。

 西田さんしかり塩見さんしかり、芝居が始まったら、やっぱりさすが役者だなぁというか。コンディションの善し悪しなど関係なく、ガツンと気合を入れてやってもらったら異常に迫力があってね。やっぱり巧いなぁと思ったよ。

──脚本の順番としては組織の相関図を作り、それで構成員の人間性などをパズル状態で構成を?

 花菱会に新しい会長(野村)が就任し、西野たちは面白くなくなる。その間に中田らの子分というか、親分直参の花田たちが問題を起こし、それをきっかけに金と裏切りを絡ませて展開させていく。結局、権力側にいる者からの殺人教唆があったりで、そんなところから裏切りが始まって。

──登場人物の方々は、みんなガラケーを使っていました。やたら生々しかったですが、それも当然、演出として?

 まぁまぁ、スタッフ含めてみんなちゃんと考えてね。

──つまり、メールなどで証拠を残さないとか、例えばのみ行為はメールでやるとまずいとか。

 うん。それに、衣裳をやってもらった黒澤和子さんなんかは、関西のヤクザと東京のヤクザの衣裳は全部変えるように工夫してくれて。関西の方が派手でね。結構高価な衣裳なんだけど、花菱会の西野の方は完全にスーツに縞入ってるでしょ。関東の野村たちはサラリーマン風だったり。そして韓国系はそっちの味わいを出す系の衣裳で。

──ある男がゆっくりフレームアウトするシーンがあり、あとでそこにシンクロするシーンに気づくんですが、そういった“間”にしても北野映画の真骨頂の一つだと思っているのですが。

 うん。若い男がスーッと出ていくんだけど、印象に残らなきゃいけないんである見映えを考えてさ。そうしたモブの設定で大体の筋ふりは出来たかな。まぁまぁ印象づけたかなとは思う。

──例えば『その男、凶暴につき』での刑事の葬式のシーン。みんな集まってる家の横の空き地でゴルフのスイングをする男がいました。「葬式ってそんなもんじゃないですか」っていう。初めてそうしたリアリティを描いた場面だと思ったんです。

 結局、故人に対してそこまで縁のなかった人の行動としては、一応、義務として葬儀に行くけど、裏ではときに笑い話してるからね。悲しんでるのは遺族だけで。「昨日の女がよお」なんて話ししてるんだから。ちょうどゴルフに凝ってたらスイングでもするだろうと思ってさ。

『アウトレイジ 最終章』あらすじ 《関東【山王会】 vs関西【花菱会】》の巨大抗争後、大友(ビートたけし)は韓国に渡り、日韓を牛耳るフィクサー張会長(金田時男)の下にいた。そんな折、取引のため韓国滞在中の【花菱会】幹部・花田がトラブルを起こし、張会長の手下を殺してしまう。これをきっかけに、《国際的フィクサー【張グループ】 vs巨大暴力団組織【花菱会】》一触即発の状態に。激怒した大友は、全ての因縁に決着をつけるべく日本に戻ってくる。時を同じくして、その【花菱会】では卑劣な内紛が勃発していた……。

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──以前、監督のアトリエにはネタ帳と言うべき作品プロットのノートがいっぱいありました。今も変わらずアイデアのストックが?

 時代劇のネタとかいっぱいあるにはあるんだけど、結局、映画化するには、日本だけの興行だと考えるところがあってね。

──個人的には、『アウトレイジ』のスピンオフじゃないですが、いずれ、そのうちまた観たい気もしますね。

 大友の子供時代、張会長の若いときの話なら作ってあるよ(笑)。ただ子供時代の大友が出てきても、それはおいらじゃないから、それはつまんねぇなと思ったけど。

──監督自身、本作のように身体に力を入れながら観るような作品がもしあれば教えてください。

 うーん……あまり映画館では観ないからね。映画はやっぱり劇場で観ないとね。テレビの画面だと雑音が入るから、そんな夢中になんないしね。

日本ならではの映画を撮らないと駄目なんだろうね。

──以前、ベルナルド・ベルトルッチ監督が、「83年から北野に注目してる」と言い、チャン・イーモウ監督は「今の日本の監督では北野監督が好きです」と言ってました。今現在、武さんが気になる監督は?

 うーん……なんか、相変わらずクエンティン・タランティーノって面白いなと思うけどね。
 あと、ハリウッドの大作撮る監督になると、監督はどこまで内容に関わってるのかって思うよね。
 例えば、オイラも出演させてもらったんだけど『ゴースト・イン・ザ・シェル』が出来たときに、撮影監督を始め、いろんなスタッフがいて、撮った素材をCGで加工したりして、実際その監督はどこまで関われてるのかっていうぐらい役割分担があるなと思ったね。
 日本の大監督だった黒澤明さんとかの、そういった監督像じゃないから。まるで合議制で映画を作ってるみたいな。いかに世界中の人が観てくれるかだけが問題であって、監督の立ち位置として作品の全面的な内容という意味では直接関係ないシステムなのかもしれないね。

──テリー・ギリアム監督くらいでも、編集権がないとやらないそうで。いまだにあのぐらいの監督でも、そういう論争がまだあるのかとびっくりしますね。

 うん。編集を人にやられちゃったら、間がもう全然違うしね。それは弄られちゃ駄目だよ。

──「アウトレイジ」の世界観は、現代の実社会でも同じようなニュースを耳にして、結構リアリティーを感じます。

 まぁ、この映画から拳銃と暴力を無くせば、ある種一般の社会だよ。下手すりゃ、ワイドショーを賑わすいろんな出来事と同様でさ。

──『菊次郎の夏』の撮影の際には、その場で役者に走り書きで書いた台詞を渡したりの演出手段だったように記憶していますが、本作シリーズは、ほぼ脚本通りに進行されたのですか?

 このシリーズでは大体の台詞はきちんと書いてあるし、一言一句変えずにやる人もいれば、西田さんみたいにそこにアドリブつけてみたりね。とは言っても筋はほとんど変えてないよ。場合によっては事前に台詞を渡して、「撮影の日にこういうふうに変えます」っていうときもあったにはあったんだけど、そんな大げさな変更はないかな。

──劇中の派手なドンパチシーンがやや幻惑的に映りましたが、やっぱりああいったシーンが撮影的には一番難しいものですか?

 あそこ、撮るのは難しいよね。でも、あんな大げさなでっかい事件が起きてるのに警察は何してんだ? とかいろんなことを考えちゃうわけじゃない(笑)。全部無視してやってんだけど。  現場では撮影用のマシンガンの調整も必要で結構大変だった。

──雨のシーンもありました。そういう天候のシチュエーションも含めて重厚で暗澹たる効果を感じました。

 天気予報を見て、「じゃあここ、雨待ちで」とかね。夜のシーンで車が黒塗りだから、照明さんがうまくやってくれるとライトの光と車のテカりが狙いたかった効果を出すから、雨っていいんだよね。

──車の天井にタイトルロゴ入れるあの演出って怖いですね。あらためて3部作品を通して総括的なご意見を。

 やっぱり3作でよかったんじゃないかと思うね。これ、延ばしたら延ばしたでシリーズものになってしまう可能性もあるけど、さらに続く連作になると、その中でどれがよかったっていう話じゃなくなっちゃう。3作で終わるのがちょうどいいんじゃないかね。
 例えば深作欣二さんの『仁義なき戦い』みたく連続でやってもいいんだけど、シリーズは延々とやってるけどストーリーが続いてるわけじゃない。エピソードエピソードで、同じ役者が何回もいろんな配役で出てきて、「仁義なき戦い」という名前が付いてるだけで一本ずつ違う独立した映画だからね。
「アウトレイジ」は3部作になってるけど、全部繋がりがあるので、そのまま続けば、4作、5作でどんどん人が亡くなって、最後には全員いなくなっちゃうんじゃないか。役者総取っ替えで(笑)。

──本作は、本年度のベネチア国際映画祭クロージング上映に招待されましたが、ベネチアに限らず海外での印象的なエピソード等がありましたら是非。

 世界的には暴力ってあんまりよくない風潮みたいだけど、あっち(欧米)にもファンはいるし、それなりに観てくれるんで「内容は暴力系だからしょうがないけど、目をつぶる部分はそれぐらいのもんだろ」というくらいの反応じゃないのかな。
 迎えられ方は大体見当がつくけど、いずれちゃんと、暴力とかそういう内容を描くものとは別に、ちょっと新しいタイプの映画を撮る準備はしときたいなと思うけどね。

──処女作から数えれば、28年あまり一線でやってこられました。映画作りで今と変わったところ、あるいは相変わらず変わらないことは?

 アジアとか小さな国のこうしたエンターテインメントは規模も限られるけど、やっぱりハリウッドっていうメジャーなとこのお客を逃がさない方法論は強いよね。
 例えばディズニーランドとかメジャーリーグの野球とかにしろ、そこのシステムを見れば分かるように、エンターテインメントは一カ所一人勝ちになってると思うんだよ。でもまだ反発して作品は作れるし、ギリギリいい時代なのかも分かんないけどね。そのうち、「日本で撮った映画をなんでわざわざ優先して観るの?」となったりしてね。個人的には、今、日本の野球をあんまり観なくなって、メジャーリーグの成績ばっかり気にしてる。ハリウッドを目指す役者もいるんだろうけど、そうしてじゃんじゃん区分けされていくとしたら日本で作る映画ってどんなものが生き残るのかなって。
 だからもしかすると観光ブームの日本だから、もっともっと日本的な趣意の映画を撮らなきゃいけないのかなってね。ヤクザって日本的なテーマなんだけどね。

北野武PROFILE 1947年1月18日、東京都生まれ。コメディアン、映画監督、俳優。監督作、多数。『HANA-BI』(98)は第54回ベネチア国際映画祭で金獅子賞受賞。『座頭市』(03)は、第60回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)受賞。究極のバイオレンス・エンターテイメントシリーズ『アウトレイジ』(10)と続編の『アウトレイジ ビヨンド』(12)は累計興収22億円超。前作は観客動員100万人を突破した『龍三と七人の子分たち』(15)。10年 フランス芸術文化勲章 コマンドゥール章、13年 第22回日本映画批評家大賞 監督賞他、国内外の受賞歴多数。そして、アウトレイジシリーズ3部作のラストとなる最終章が、ついに公開。

──昔、黒澤監督と対談されたとき「映画制作とは粋なこと」と語っていらっしゃいました。変わらず今もその感覚ですか?

 現代はヌーヴェルヴァーグとかの時代ではないからね。今、新しいやり方や手法で映画を撮ったところで、「何それ?」って言われるような時代で、映画に対する解釈を新しくしたなんて言ったって、「そんな面倒くさいの観たかねぇ」で終わりでね。
 ただ、世界中の人々が日本に観光で来るんだったら、それを受ける形の、別に観光のための映画だけってわけじゃなくても、世界中の人々が注目するような至って日本的な、日本ならではの映画を撮らないと駄目なのかもわかんない。
 「アウトレイジ」シリーズって日本的だと思うんだよ。ヤクザは、ギャングではなくてヤクザであって。マフィアはマフィアで、描くとしたら細かいことよく知らないと無理があるんだ。そうすると、自分がやるとしたら時代劇になっちゃうのかね。

──一つ伺いたかったことが。『アウトレイジ』のとき関内(前山王会会長/北村総一朗) が加藤(山王会会長/ 三浦友和) を小突くシーンがありました。あれはアドリブですか?

 アドリブだよ。あれはね、北村さんが現場でやったんだよね。2人のリハーサルでも「大丈夫ですか?」みたいに確認して「もちろんですよ」と言って三浦さんがひっぱたかれる。役者としては北村さんの方が先輩ってのもあるけど、あの2人も演技にメリハリつけるの巧いよね。

──これまでの北野作品とは真逆の感じで、役者が頑張れば頑張るほど成果が出るみたいな作品といいますか。しかし逆に、演出的に危険もあるんじゃないかという気もしてしまうのですが。

 うん。だから、演技をやりすぎるのだけはね。例えば、塩見三省さんが最初に登場したときは、もう特異なキャラクターで演技の機微がすごかったんだけど、それを見てマネするのは駄目なんだよね。かたや西田さんは西田さんだし。やっぱり役者って「いい演技だなぁ」と思うと、それに近いフレーバーで演じたくなるもんなんだよね。気持ちは分かるけど同じフレームの中なんで駄目ってなるからさ。

──読者にメッセージを!

 まぁ映画はそれなりだと思うよ。損はしないと思うから観てよっていう感じかな。

取材・構成/米澤和幸(LotusRecords)写真(特写分)/尾形正茂(SHERPA)
協力/海陸和彦(LotusRecords)撮影協力/AWABEES
©2017『アウトレイジ 最終章』製作委員会 配給:ワーナー・ブラザース映画/オフィス北野

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