2012年6月27日更新!!
【STEP123】シトー派修道会

 私が生まれて初めて訪問した修道院は、小学生のときに家族で旅行した、函館のトラピスチヌ修道院でした。シスターの案内で敷地内をめぐり、「修道女は私語を禁じられている」とか、「修道院から外出できない」といった厳しい戒律を聞き、驚いたのを覚えています。この函館の女子修道院がシトー派修道会であることを知ったのは大学生になってからで、ワインの歴史を語る上で非常に重要な、ブルゴーニュのシトー大修道院を訪れたときでした。

修道院

キリスト教世界では、ワインはイエス・キリストのあがないの血とされ、古くから宗教儀礼に欠かせないものでした。ワインの輸送が困難であった中世までは、新しい修道院やミッション(伝導所)を建設するにあたって、必ずといってよいほど葡萄畑が併設され、ワインの醸造が行われてきました。ワイナリーの多くが商業上の目的で建設されたボルドーを除き、ヨーロッパのほとんどのワイン産地は宗教と密接に結びついており、特にブルゴーニュやラインガウにおいては、修道士たちによってそのワイン産業の基礎が築かれています。

 中世ヨーロッパにおいて、偉大な葡萄畑の多くを所有していたのは修道院でした。例えば、ベネディクト派のクリュニー修道院(910年創立)は、現在のジュヴレ・シャンベルタン村の畑のほぼすべてを所有していましたし、ヴォーヌ・ロマネ村の畑はやはりベネディクト派のサン・ヴィヴァン修道院(900年頃創立)に帰属していました。 500年間に亘って唯一の修道会であった同派はヨーロッパ中に修道院網を張り巡らし、その葡萄畑はイタリアからドイツにまで及び、ロマネ・コンティはもちろんのこと、ボルドーのシャトー・カルボニューやラインガウのシュロス・ヨハニスベルクまでもが含まれていました。

 ベネディクト派の葡萄畑の多くが寄進によって増えていったのに対し、同派から1098年に独立した禁欲的なシトー派は、みずから血を流して開墾する道を選びました。彼らが開墾した最も有名な畑は、ブルゴーニュ最大の特級畑であるクロ・ド・ヴージョ(12-14世紀にかけて開墾)で、彼らはここで「特定の区画の葡萄からつくられたワインが毎年毎年、常に一定の独自性をもっている」こと、すなわち「テロワール」を発見します。シトー派は葡萄栽培やワイン醸造に関する研究を推し進め、剪定や挿し木、醸造に関する詳細な資料を残しています。過剰な労働のためか、11世紀のシトー派修道士の平均寿命はたった28年で、その労働のほとんどは葡萄畑に捧げられました。

クロスター・エーバーバッハ

 クロスター・エーバーバッハは、ブルゴーニュのシトー派が1136年にラインガウの谷間に建設した、木立に隠された美しい修道院で、映画『薔薇の名前』の舞台にもなりました。修道院に隣接するシュタインベルクは「ドイツのクロ・ド・ヴージョ」と呼ばれる単一畑で、クロ・ド・ヴージョと異なるのは、シュタインベルクが現在も単独所有されていることです。クロスター・エーバーバッハおよびシュタインベルクは、ナポレオン時代にナッサウ大公に接収され、その後プロシアの国営を経て、現在はヘッセン州(州都はヴィースバーデン)の公的所有となっています。

 クロスター・エーバーバッハでは1136年から1803年までの667年間、シトー派修道士の手によってワイン生産が行われていたのですが、修道士たちは葡萄畑がワインの質に与える影響を知っていたようで、1390年以降は「マルコブルン」等の畑名をつけてワインを販売するようになりました。また、18世紀の初頭には高品質のワインを選抜し、特別の酒庫で熟成を行って、現在の「リザーヴ」に当たるワインを「カビネット」という名前で販売していました。ラインガウの他の歴史的ワイナリーと同様に、1970年代の中頃からワインの質にかげりがみられるようになったのですが、新しい醸造チームの努力により1995年ヴィンテージ以降、高貴な甘口ワインの名声を取り戻しています。

 シュタインベルクの32ヘクタールの畑のうち、95%にリースリングが植えられており、畑はクロ・ド・ヴージョと同じく石垣で囲まれています。クロ・ド・ヴージョと同様に、32ヘクタールのシュタインベルクの畑の地勢は均質ではなく、畑の傾斜はところにより15度から35度と幅があります。これによって日照や水はけが異なり、出来上がるワインには興味深い香味の差が現れています。たとえば斜面中腹のツェーントシュテュックと呼ばれる区画からは、毎年毎年最良の辛口ワインが生まれるとされています。また、石垣のそばに植えられている葡萄は、石垣からの輻射熱によって果実の成熟が早まることが知られており、壁際の葡萄からのみ醸造したワインはマウアーヴァイン(壁のワイン)と呼ばれて、主にオークションでのみ売買されてきました。80を超える生産者が存在するクロ・ド・ヴージョと異なり、すべて国営醸造所で醸造が行われているため、中世のシトー派修道士が知覚した「区画ごとの味わいの違い」を追体験できるのは、現在ではシュタインベルクだけなのかもしれません。

第125話『血脈』 のワイン:
アベイ・ド・レランス サン・セザール シャルドネ

 アベイ・ド・レランス(レランス修道院)は、南フランスのカンヌ沖に浮かぶレランス諸島の、サントノラ島にあるシトー派修道院で、8ヘクタールの葡萄畑から、シラーやムールヴェードル、ピノ・ノワールといった赤ワイン、シャルドネやクレレットといった白ワインを生み出している。また、シャルトリューズやベネディクティンと同様に、レリーナ・ヴェルト(緑)およびレリーナ・ジョーヌ(黄)といった薬草リキュールも生産している。サントノラ島には410年頃から修道院が建設され、修道士の島として知られてきたが、フランス革命によって国に接収された後に再びシトー派修道会が買い取り、現在に至っている。

 「キュヴェ・サン・セザール」と名付けられたシャルドネ2009年ヴィンテージは緑がかった黄色で、パイナップルやパッションフルーツといった南の果実の香りがする。ワインはフレンチ・オークの新樽で熟成が行われているが、オークの風味はワインによくなじみ、過剰なところがない。味わいは、よく熟れたパイナップルを想起させるもので、粘性があり、凝縮している。アルコール度数は14.5%と高めで、ブルゴーニュというよりは、カリフォルニアのシャルドネに近い味わい。アベイ・ド・レランスにおけるワインおよびリキュール生産の映像を以下のサイトで見ることができる。
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