2012年9月26日更新!!
【STEP126】葡萄畑の四季

 葡萄樹は季節の移り変わりのなかで、通常は年に一度、発芽から収穫に至る生長の周期を経験します。この周期の長さは葡萄品種や気候によって異なり、熱帯の葡萄畑の早熟品種では発芽から収穫まで130日程度であるものの、冷涼な地域の葡萄畑では早熟品種でも200日を超えます。

春の訪れ

 春先(北半球では3月頃)、気温が10℃を超える暖かい日が数日続いて表土が温まると、葡萄樹は剪定された枝の切り口から、透明な樹液を出すようになります。詩的に「葡萄樹の涙」とでも呼びたいところですが、英語ではこの現象を "bleeding" (「出血」または「放血」)と呼び、数日間続きます。一滴ずつ流れ出る液体のほとんどは水分ですが、低濃度のミネラルや糖、有機酸やホルモンが含まれ、葡萄樹1本あたり5リットルもの樹液を流します。「葡萄樹の涙」は、根が浸透圧で土中の水分を汲み上げ始めたことを意味し、葡萄畑に春が来たことの知らせです。

 その後、発芽が始まり、枝葉が伸びてくると、葡萄畑は少しずつ緑色に染まってきます。発芽後10日程度で葉や巻きひげが現われ、葡萄樹は光合成を開始します。4月に入ると新芽(のちの新梢)は生長のピークに差し掛かり、一日で3cm以上も伸びるようになります。ボルドーやブルゴーニュでは、それまでセピア色だった風景に緑が映えて、気分を浮き立たせてくれます。葡萄樹の畝間にカバー・クロップ(被覆作物) が植えられていることの多いカリフォルニアでは、葡萄樹の休眠期である晩冬に花を咲かせるワイルド・マスタードの黄色から、葡萄樹の新梢の緑に畑の色が少しずつ変わっていきます。

春から夏へ

 5月に入ると、のちに葡萄の房となる小さな花房が見られるようになります。これは気温が15~20℃となる5月の半ば以降に開花を迎え、小さな緑色の果粒が結実します。開花というと、葡萄畑いっぱいに花が咲くように想像してしまいますが、葡萄の花びらは蕾の状態の根元から外側に向かって開き、開花と同時に青い色のまま落ちてしまうため、「葡萄に花びらはない」と勘違いしている農家の方も多いようです。花びらが落ちた後にはめしべとおしべが残り、結実して果粒となります。

 結実から40~50日後の7月から8月にかけて、葡萄は果粒の色づき期(ヴェレゾン)を迎え、黒葡萄の場合は赤黒く、白葡萄の場合は黄緑色に変色します。色づき期以降、果粒は軟らかくなり、内部に糖が蓄積されるようになります。絶対量はさほど変わらないものの、水分や糖、カリウムなどの流入によって果粒に含まれる酒石酸濃度は相対的に減少し、また、気温が高ければ高いほど、呼吸によってリンゴ酸が消費されます。

秋から冬へ

 収穫のタイミングは葡萄品種や生産するワインのスタイルによって異なりますが、北ヨーロッパでは一般に9月に集中します。シャンパーニュに代表されるスパークリング・ワインは早めに収穫され、甘口ワインやフォーティファイド・ワイン用の葡萄は遅摘みされます。

 果粒中の糖度が上昇する一方で酸度が下がり、酸性度が下がる(pHが上昇する)変化のスピードは葡萄品種やそのクローン、栽培地の気候によって異なり、ゆっくりと成熟するカベルネ・ソーヴィニョンでは大きな問題とはならないものの、成熟のスピードが早いシラーなどでは、最適な日に一気に収穫してしまう必要があります。また、暑い気候の下では果粒中の変化が急激に進むものの、冷涼な畑ではゆっくりと成熟します。涼しい海風の吹くカリフォルニアの畑での糖度(Brix)上昇は、収穫直前の一週間で0.5~1.0度程度です。

 収穫は、葡萄が完熟してワイン醸造に最適となったタイミングで行うのがベストですが、多数の収穫人を必要とする手摘みの収穫では、葡萄の完熟如何にかかわらず、収穫人の都合に合わせて行わなければならなかったり、天候が崩れることが予想される場合には、雨の降る前にやや未成熟な状態で収穫するかどうかの決断を迫られます。収量に恵まれ、複数の葡萄品種がほぼ同時に完熟を迎えたカリフォルニアの1997年ヴィンテージでは、多くのワイナリーが処理能力の限界に直面し、晩熟型の黒葡萄品種の一部は発酵タンクが空くのを待っていたために、過熟のニュアンスを帯びるワインとなりました。また、9月5日に雹に見舞われた1999年ヴィンテージのサンテミリオンの一部では、腐敗を避けるために、9月中旬以降に予定されていた収穫を早め、降雹の翌日に未成熟な果実を収穫しなければなりませんでした。

 収穫後、気温が下がるにしたがって葉は葉緑素が抜けて黄色化したり、落葉したりし、葡萄樹は翌春まで休眠に入ります。北半球の葡萄畑では通常、12月から2月にかけて剪定が行われ、前年度に成長した葡萄樹の新梢の85%以上が切り落とされます。

第128話『宿命‐後編‐』 のワイン:
ロバート・モンダヴィ カベルネ・ソーヴィニョン リザーヴ 1998

 1998年のカリフォルニアは、ラ・ニーニャによる冷夏のために、カベルネ・ソーヴィニョンには青ピーマンのような植物的なニュアンスが残った。ロバート・パーカーは、モンダヴィのカベルネ・ソーヴィニョン・リザーヴをリリース時に試飲して、89点という例外的に低い評点をつけている。ロバート・モンダヴィの関係者によれば、パーカーの異様に低い評価のために、リリース価格を3分の1にディスカウントしても買い手がつかず、従業員にタダ同然の値段で配られたという。

 しかしながら現在、この1998年ヴィンテージを試飲すると、軽い植物的な香りがワインの複雑なニュアンスへと昇華し、最上のボルドーのような、美しいワインに変貌を遂げている。米国でのリリース価格は1本あたり150ドルであったが、ジャーナリストたちの低評価のため、米国市場では現在、55ドル程度で流通している。
(原稿執筆時点における1998年ヴィンテージ750mlの楽天市場最安値は10,500円[税込]) 

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