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#2 サウスケント校バスケットボール部 前任コーチに聞く!!

※このインタビューは07年1月31日に行われました。

1972年生まれ。サウスケント校前任コーチ。ビクトリア大学大学院でコーチング学を就学。ラファイエットカレッジでバスケットをし、イタリアとスペインのプロでプレイヤーとして6ヶ月を過ごした。サウスケントを率いて4年。2008年2月退任。

井上(以下青文字): 今年のチームは、どうですか?

チリアス(以下グレー文字): まあまあですね。今のところ17勝10敗で、もうすぐリーグ戦1位を賭けて戦います。シーズンの始めにケガ人が二人出ました。また何人かやるべきことをしなかった選手を出場停止にしました。このため少し出遅れましたが、その他はなかなか順調にきています。

プレップチームには、今年は外国からの留学生はいますか? また、彼らはどんな活躍をしていますか?

はい、ナイジェリアから二人、韓国、イギリス、セネガルからそれぞれ一人ずついます。彼らは非常によくやっています。現在いる国外の選手は、みな1年以上ここにいます。今年入ったナイジェリアからの選手一人を除いて、みな2、3年ここでプレイしています。彼らが今年のチームの中核を担っています。

日本では、昨秋この奨学金が設立されましたが、いざ応募となると具体的なプレップに対するイメージがつかめないところがあるかもしれません。チリアスさんからプレップスクールを紹介するメッセージを頂けますか?

私が言えることは、ここアメリカに来てからも引き続ききちんとした教育を受ける機会があるということです。同時に米国内でもレベルの高いバスケットボールチームで自分を鍛えられます。我々はここアメリカにおり、日本人選手はみな日本にいるため理解しにくいかもしれませんが、アメリカでは知名度の高いバスケットボールのプログラムです。このため、選手が実際にアメリカに来れば、みなにその存在を知られることになります。

どんな選手を期待しますか?

それは、その時々によってですね。プレイするポジションなどによっても異なります。奨学金を出すということは、このレベルで十分戦える選手が来ると理解してよろしいんですよね。そうでなければ、あまり賢いお金の使い方ではないですね。ここに来る選手は、確かにスーパースターではないかもしれませんが、このレベルで戦い、プレイする時間を与えられることがとても重要です。そして先々では奨学金を得てぜひ大学へ進学して欲しいと思います。また、個人的には地域社会の一員として溶け込んで欲しいと思います。バスケットボールのことだけではなく、教会に行ったり、授業に出たり、学校で与えられた仕事をきちんと行うことを、第一に求めます。バスケットボールはその後、自然とうまくいくと思います。

日本人プレイヤーに何か特別なイメージを持っていますか?

1995年に遡りますが、私がロスで行なわれたNBAサマーリーグでプレイした時に日本から来たチームが参加していました。その時の最も印象的なことは、選手全員が非常に規律を重んじていたということです。殆ど必ずと言っていいほど、パターン通りに走ったりプレイをしていました。このため、我々は次がどのようなプレイになるか予測が出来、日本人選手はそこに味方がいると見越してパスを出しますが、先回りをして立っていると、ボールはまんまと私の手に渡りました。もう一つのイメージというのは、機敏ですばしっこく、素晴らしいパスが出せるということです。タイシ(伊藤大司・現ポートランド大1年)は私が大好きな選手の中の一人でした。殆んど得点をしなくてもゲームの中でも物凄い影響力がありました。ナイキキャンプやモントロース高校でプレイする彼の姿を見ました。彼はどのタイミングで誰にパスを出せば効果的かということをきちんと理解し、シュートを打つべき時にしかシュートも打ちませんでした。とても賢い選手です。

秋口からの部活内容は、どんな感じになりますか?

学校は9月3日から始まりますので、我々もこれに合わせて練習を開始します。その日から選手たちとは1対1やグループなどで一緒に練習を始めます。この9月から10月の終わりというのは大変重要な時期です。なぜならこの時期大学のコーチがスカウトにやってくるからです。大学のコーチがいない時は選手と個人的な練習を行ないますし、来ている時は少しでも彼らの前でプレイをする機会を与え、大学への奨学金のオファーを引き出すようにします。

このサウスケント校の出身で現在、NBAマイアミ・ヒートで活躍しているドレル・ライト選手についてお伺いします。彼は、どんな選手でしたか?

彼は一生に一度会えるかどうかの素晴らしいアスリートです。ただ、彼の最も素晴らしい点はその人間性です。彼は未だに夏ここに帰ってきますし、私が開いている小さい子どもたちのための夏期バスケットボールキャンプにも参加し、試合の笛まで吹いてくれます。ただただ、すばらしい男です。彼とは一日一回は電話で話しますね。マイアミにとって今は耐え時ですから、頑張り続けて欲しいです。

今回、応募する日本の子達に何を準備してほしいですか?

ここでの生活は、バスケットボールの選手として、肉体的にも、精神的にも今まで経験したことがないほど辛く、厳しいものになるでしょう。なぜなら私は、ここでプレイする選手、うまい選手もそうでない選手も、全員関係なくプロ意識を徹底的に叩き込むからです。これにより、卒業時には、少なくとも過程の中でいくつかの目標を達成することが出来ます。ここに来る時には、万全のコンディションで来て下さい。ウェイトルームに入って強くなる必要もあります。私は非常に高いレベルを求めます。今までの人生で最も厳しい練習になることでしょう。

ヘッドコーチとしてサウスケントの選手にどんなことを求めますか?

どんな時でも紳士であることを求めます。品格を持ち、対戦するどんな相手に対しても精一杯努力することを期待します。時にはチームとして、選手の素材という面でそれほど恵まれないこともあるでしょう。しかし、どんな時でも一生懸命、精一杯努力することは出来ますし、それが私が最も選手に求めることです。ここに留学してくる選手にたまに見受けられることなのですが、あまりにもアメリカ人になりすぎてしまうことがあります。つまり、これはここに来た当初の目的を見失ってしまっているということです。あまりにも多くのことに振り回されてしまい、素晴らしいバスケットボール選手になること、もしくはバスケットボールを極めるといった、元々の目標を忘れてしまうのです。大事なことは彼らが家族や自国の誰かと話しをする時には必ず「当初の志を忘れるな」と絶えず言ってあげることです。ここでは、楽しんで欲しいと思いますが、同時に一生懸命やる時でもあります。

チリアスさんのコーチ哲学を教えてください。

私のバスケットボール哲学は、ここを卒業する選手には最もテクニックのある選手として卒業してもらうことです。つまり、これは通常のアメリカにおけるコーチングとは大きく異なります。正反対といってもよいでしょう。アメリカにいる多くのコーチは4分の3の時間を戦術に費やします。そしてテクニックには4分の1の時間しか費やしません。私のコーチングスタイルはもっとヨーロッパスタイルに近く、殆どの時間をテクニックに回し、そのほかの時間は戦術を行ないます。私は、コーチがどんなに知識があってもそれを体現できる選手がいなければ何の役にも立たないと思います。どうせならものすごくテクニックがあり、あくなき向上心のある選手を私は求めます。4月にここに足を踏み入れたその瞬間から翌年の5月にここを去る頃には、別人のようにうまくなっていることでしょう。