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ナリに必要なのは、小さな壁を乗り越えることだけだ───

※このインタビューは08年12月に行われました。

 何といっても苦労しているのは勉強。その最大の障害となっているのが英語だ。たとえば、数学のテストを受けても質問の英語が理解できなければ、数学の問題を解く以前のところでつまずいてしまう。

「英語も前よりわかってきているんですけれど、1年しかないから…」と並里。「本当に必死に勉強しないと」

 スラムダンク奨学金を受けての留学期間は残り半年弱。その後アメリカの大学に進学し、バスケットボールを続けるためには、英語で大学進学適正テスト(SAT)を受け、一定以上の点数を取る必要がある。いくらバスケットボールの能力を認められても、成績面でクリアできなければNCAAの大学への進学は難しい。

 英語は、バスケットボールをする上でも障害となってくる。

 大声援を受けた開幕戦の3試合後、並里はベンチから立つことなく試合終了を迎えた。生まれて初めてのDNP(不出場)である。チームは、強豪のパターソン校相手に34対53の大差でシーズン最初の黒星を喫した。小さなゾーンで守ってきたパターソンに対し、シュートがまったく入らなかった。それをベンチから見ているしかなかった並里は「みんな調子が悪かったですね。あのときは、まだ自分が出たほうがマシだったんじゃないかと思ってました」と悔しがる。

 とはいえ、心では悔しがりながらも、頭の中では意外と冷静に自分の状況を理解し、分析してもいた。

「バスケットの部分では、自分はまだミスが多いです。あとはやっぱり英語ですね。いい監督ほど、ポイントガードに指示がいくんですよ。自分は指示を聞くことはできるんですけれど、まだみんなに伝えることができなくて。それが(プレータイムが限られる)原因じゃないかと思う」

 言葉の壁がプレータイムに影響していることは、ヘッドコーチのケルビン・ジェファーソンも同意する。

「ナリは、バスケットボールはよく理解していると思う。覚えるのも早い。プレーを指示すればすぐに理解するし、二度繰り返して言う必要がない」とジェファーソン・コーチ。「ただ、試合中、試合の流れの中でプレーを指示しても、時々わからないことがあるようだ。正直言って、そのために、彼が試合に出ているときには使えるプレーが限られてしまうという問題はある。彼のバスケットボールの能力にはまったく問題を感じていないので、ナリに必要なのは、そういった小さな壁を乗り越えることだけだ」

 実際のプレー面では、選手の体格やファウルなどで日本との差を感じる一方、自分でも通用する面があるという手ごたえを感じていると言う。

 12月はじめ、『スラムダンク』の作者で、スラムダンク奨学金の設立者でもある井上雄彦氏がサウスケントの並里を訪れた。井上氏から、アメリカでも通用していると感じたことは何だったかと聞かれ、並里はまっさきにスピードとパスをあげた。

 たとえば、パスは日本ではチームメイトが取りやすいようにパスのスピードを緩めたりしていたのだが、アメリカではむしろ速いパスのほうが好まれる。つまり、自分の力を抑えることなく思い切りプレーできるのだ。

 ただしその一方で、スピードが速くなればなるほど、少しのずれがミスにつながるということも自覚している。 「アメリカ人は大きいし、手が長いから、パスが(ディフェンスの手に)かかったりするんです。だから、その分コントロールが必要になってくる」と並里は説明する。それだけ高いレベルでのプレーが必要な環境にいるのだから、選手としてはやりがいがあり、成長も期待できることは間違いない。

 アメリカで経験するほかの壁にも同じことが言えるのかもしれない。確かに英語や勉強など、日本にいればしなかったような苦労もしている。しかし、努力し、その壁を抜けることができれば、それだけ自分が成長することができる。そうやって努力し、ハッスルし続ければ、応援団もさらに大きくなっていくはずだ。

 ジェファーソン・コーチも、こう言っていた。 「私はナリのことを手助けしてあげたい。彼はいい選手だし、(アメリカで)大学に行ってほしいからね。彼なら大学で成功できると思う。私も、それを見てみたいんだ」