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これを超えたら、もうちょっと大きくなれるんじゃないかなと思っています───

 ※このインタビューは09年12月に行われました。

早川ジミー

身長/189cm
ポジション/SG
年齢/19歳

SD奨学金2期生。神奈川県出身。追浜中2年のときに神奈川県オールスターに選ばれる。九州の強豪、福岡第一高校に進学、2年の時からスターターとしてチームを牽引。U15、U18日本代表。リバンド力に定評があるが、アメリカではガードへのコンバートを目指す。

 一方で早川は、シーズンが進み、12月になってもまだ悩み、苦しんでいた。シーズン前には、アメリカの強豪校で、自分をどうやって出したらいいのかに悩んでいた。「何かで認めてもらわないといけない。何かで一番になろう。」と決心し、夏の間にトレーニングに力を入れ、その結果、シーズン初日の体力測定では、ベンチプレスでチーム一番になることができた。

「その部分は自信にはなっているんですけれど、やっぱりバスケはアメフトでもラグビーでもないから、身体だけでかくてもどうにかなる世界ではない。」と早川は言う。「ボールを使ったり、スキルが必要とされるし、その部分が自分で何が足りないのかを確かめていかなきゃいけない。」

 コーチからは、「自分のポジションを見つけろ。」と言われていたが、その言葉が何を意味するのか、何をどうしたらいいのかわからずにいた。

練習中、チームメイトのひじが目の上に当たって流血した早川。その日の練習は見学していたが、翌日の試合から復帰した。

 試合では、まったく出番がないかと思うと、終盤のファウル要員として、あるいは、試合終盤のディフェンスだけ出るといった起用のされ方で、なかなか自分のリズムをつかめずにいた。元々の持ち味であるハッスルプレーも、試合では発揮できていなかった。

「高校一年のときにも、中学との違いで辞めそうになったことがあったんですけれど、そのときは自分が下手だと自覚していた。今は、ここに来て、自分でそこまでできていないわけじゃないのに認められていない。だから、こっちのほうがショックが大きいです。」と言う。そのことで悩んでいるために、勉強にも身が入らず、友人から話しかけられても邪険にしてしまう自分にさらに嫌気が差すのだという。

 二人の前に壁となっているのは、アメリカのバスケットボールだけではなかった。アメリカで大学に行くためには、成績を上げなくてはいけない。その壁は、バスケットボールの壁とは別に高く存在していた。

 そんな悩みを抱える2人に、井上雄彦氏がある人のメッセージを伝えた。かつてアメリカ留学で苦労した経験がある田臥(たぶせ)勇太からの伝言だった。

留学前はほとんど英語を話せなかった早川だが、今はチームメイトとも問題なくコミュニケーションが取れるまで上達。

「どんなことでも、すべての経験が財産になる。今を大事に頑張ろう。」

 まるで、今の二人の現状や悩みを知っているかのような言葉だった。井上が代筆して紙に書かれたこのメッセージは、二人にそれぞれ手渡された。

「そうですよね。あの人(田臥)も試合に出られない経験とかたくさんしていますからね。」と早川が言うと、谷口も「グサっと来ます。すごくいい言葉ですね。大事に取っておきます。」と、感謝した。

 それにしても、日本に残っていればしなくてもよかったような苦労を経験し、悩みを抱え、大きな壁に直面し、今、二人は何を思っているのだろうか。アメリカに来なければよかったと思うこともあるのだろうか。

「日本の大学に行っていたらどうだったかというのは、たまに考えます。でも、日本の大学に行っていたらセンターしかできていないんだろうなって、いつも、最終的にはそこにたどり着きます。」と谷口。日本にいる元チームメイトの活躍が気になるときもあるというが、それでも「自分の夢は日本に残ることじゃないので、こっちで経験できることが大きい。」と言う。

 一方、早川は、「この奨学金はアメリカに行きたいと思って応募する人が多いと思うんですけれど、夢と現実は違うっていうのが自分の現実ですね。」と言う。とはいえ、それだけ「現実」に直面しながらも、アメリカに来なければよかったと思うことはないと断言する。

「これを超えたらもうちょっと大きくなれるんじゃないかなと思ってます。そこは、唯一のプラス面ですね。」と早川。さらに「どうしてもアメリカの大学に行きたい。もしもアメリカの大学に行けなかったら、今起きているどんなことよりも、本当にショックがでかいと思う。それだけは逃したくない。」と加えた。

 サウスケントでのバスケットボール・シーズンは残りあと2ヶ月。その後3ヶ月で留学の期間も終わる。

 すべての経験が財産になる。今を大事に──。田臥からのその言葉を胸に、2人は改めて壁に向かっていく。