「マリー-ジョセフが好き────」ブログなどでも「イノサンRougeルージュ」の愛読者であることを公言する歌手・中島美嘉と作者・坂本眞一の夢の対談が実現!! 最前線の表現者の語る作品の魅力とは…!? 作品と彼女の意外な接点とは…!?
書店で出会ってその日に3回読み直したんです
実在の一族がモデルで、きたーって感じでした(中島)
──そもそも、中島さんが『イノサン』を手に取られたきっかけは何だったのでしょうか?
中島 たまたま書店に入ったら、正面にどーんって『イノサン』が置いてあったんですよ。もう、絵に一目惚れして、そこでだーっとその時に出ていた7巻全部を買ったんです。ジャケ買いでした。店員さんに「これで全部ですか?他にないですか?」って確認したぐらい(笑)。それで、自宅に帰ってからすぐに3回繰り返し読みました。もう面白すぎて、好きすぎて。
坂本 残酷な表現とかには抵抗感はなかったですか?
中島 いえ、むしろ好きって言うと語弊がありますけど、よくぞこの綺麗な絵で表現してくださったと嬉しかったんです。
坂本 この作品は残酷な描写や凄惨な場面もたくさんあるんですけど、やっぱり美というものを同時に描き切るというのが今回のテーマでもあったので、その言葉は嬉しいです。
中島 あと私は、もともと実際にあった怖いお話が大好きで、「フランス革命で国王ルイ16世を処刑した死刑執行人」というんで、もうこれ、きたーって感じでした。マリー-アントワネットは誰もが知ってても、代々死刑執行人を輩出してきたサンソン家というのは知られていないし。私自身は、ずいぶん前に、小説でサンソン家のことを読んでいました。あと、実際に行われていた拷問や死刑が全部書かれている「拷問全書」「死刑全書」といった本も持っているぐらいで、「イノサン」は、私の興味に完全にリンクしたんです。
坂本 僕は、同じ人間がここまで残酷なことができるというその行為に興味がありました。善悪すらわからなくなるような感覚。人間だから道徳的な生き方ができるとかじゃなくて、こういう恐ろしい一面も兼ね備えているという奥深いところにスポットライトをあてたいと思ったんです。
人の苦しみみたいなものは、自分が担当なので(中島)
中島 私は、人の怒りとか悲しみ、苦しみみたいなものは、自分が担当しようと思っているところがあって、ライブでも、「今日は思い切り悲しみや苦しみをぶつけてきて」と言ったりしているんです。それもあって、死刑とか解剖とか人間の精神とか、人の心や中味をえぐることに昔から興味があったんです。結局、最終的には、自分の心もえぐっちゃうんですけどね(笑)。 ところで、サンソン家のことって、フランスでは普通に皆さん知っているんですか?
坂本 毎回、フランスに行ったときには、サンソン家のお墓に花を手向けるんですけど、そこには必ず綺麗な花がもう置いてあるんです。血の繋がっている誰かが置きにくるのか、潔白だという思いで置きにくる人がいるのかはわかりませんけど。
中島 それを聞いたら、私はもう、サンソン家のお墓参りに行くのが夢になっちゃいました。
坂本 フランスでサイン会をやったときには、現地の人から「サンソンを今なぜ扱うんだ?」みたいな質問をされるし、「いや、サンソンは潔白だ」と声をかけてくる人がいたりとか、フランス人にとっては、そんなに忘れられた存在じゃないんだというのがすごく印象深かったですね。日本では歴史の闇でまったく知られていないわけですけど。
中島 私は、サンソン家が実在する18世紀という時代にすごい興味がありました。マリー-アントワネットの好き嫌いは別として、サンソン家の話がこれまであまり出てこなかったのは不思議ですよね。フィクションではなく、実際にシャルルが処刑してたんですよね。
坂本 処刑されたときの図版や絵がいろいろ残っているんですけど、ギロチンの横に死刑執行人が描かれています。皆さんもたぶん、歴史の教科書とかでそのギロチンの絵を1回は目にしているはずで、そこには必ずサンソンがいます。人類において、一番はナチス、二番目はサンソン家と言われるぐらい、多くの人を処刑しているんですね。処刑した人の数は3000人近い。それを知ったときの僕自身の衝撃はすごく大きかったです。
中島 でも、変な話、処刑するのが仕事なわけですもんね。サンソン家は代々。
坂本 そうです。たったひとりの男の手で3000人もの首を落としたわけです。しかも、スタート時点では自分が望んだわけじゃなく仕事に就いた。当時のフランス社会には、職業選択の自由がなくて、死刑執行人をやるしかなかったんですね。
中島 シャルル-アンリ・サンソンひとりで3000人も処刑したんですか?
坂本 はい。革命期にギロチンという簡単に人を処刑できる道具が生まれた瞬間から、1日に40人、50人という感じで行われていった。これからまさにそこを描くんですけど。
ーー物語は、まさに『イノサン』9巻のあと続編である『イノサンンRougeルージュ』に入っています。中島さんの感想は?
中島 まず、「Rouge」ってどういう意味なんだろうって、混乱しながら勝手に想像して楽しんでました。たぶんマリーの人気が出てしまって、よくある映画のようにヒットしたからスピンオフしたんだなと思ってたんですけど(笑)。
坂本 …よくある(笑)。実は、自分自身に妻や娘ができたことによって、女性の視点が自分の中にもできてマリーは生まれたんです。前作、『孤高の人』に取り組んでいたときから描こうと思っていたキャラクターでもあって。だから実際は、『イノサン』の1巻目からマリーは登場していて、のちに主人公となっていくことは、最初から仕組んでいたことなんです。
[イノサンRougeルージュ] 坂本眞一
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“首飾り事件”結末の因果に、マリーは大いなる「運命」との闘諍を誓う。一方、「人は皆、平等」の新思想の青年オリビエが、車裂き刑で処されることに。同情し暴動を起こす民衆に、サンソン兄妹は「新しき力」を見出す…!! そして、マリーが引き連れる「新しき命」の存在は──!? 物語は仏革命の真の引鉄、「ベルサイユ死刑囚解放事件」から「三部会」、そして「国王処刑」へ…!!! サンソンが映し出す“フランス革命の真実”とは──!!?
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